本「奇跡の人」原田マハ~感想・ネタバレあり~

これはまさしく「ヘレン・ケラー」を日本を舞台に、というか、日本人に置き換えて著されたフィクションです。

 

ヘレン・ケラーは子供の時に読んだことがあり、内容というよりは本の挿絵を覚えている程度。

他には「ガラスの仮面」で主人公のマヤがアユミ様とダブルキャストで演じたものを覚えてるくらいですね。

あの、生まれたばかりの子羊のようにユラユラしながらマヤ演じるヘレン・ケラーが発した「ウ、ウ、ウォーター・・・」ていうやつです(これ、わかる人はわかってくれるはず!)

 

なので、多少はわかっている内容かと思い軽く読み進めてみたら最初から結構引き込まれましたね。

 

舞台が日本の弘前ということ、時代が伊藤博文が出てくる明治時代ということ、この2つは大きいです。

西洋の波に呑まれぬよう、欧米に追いつくよう、明治維新後、日本という国は大きく変わった時代でありました。

それでもまだまだ人々の考え方や家のあり方、生き方が固まっている時代であったと思います。

 

そんな時代に、欧米で教育を受けた去場安(サリバアン)が「見えず、聞こえず、話せず」という三重苦のわずか6歳の少女、介良れん(ケラレン)に教育をするために弘前を訪れます。

 

なんというか、最初から切なかった。

 

れんは男爵令嬢という名家の子女で、1歳になるかならないかの時に高熱を出し、そこから目が見えなくなり、耳も聞こえなくなります。

言葉を覚える前だったので、しつけはおろか人として必要なことが一切わかりません。そのため、獣のような振る舞いをし、3歳からは一人、蔵に閉じ込められたまま生活をしているのです。

 

物心つく前から暗闇と無音の世界ではしょうがない、と思ってしまいましたね。

でも、悲しいのが、家名を重んじる時代でしたので、まだまだ幼い少女が一人蔵の中で生活をさせられるだけでなく、使用人からは周りにわからないように虐待までされていたんですね。

 

私にも姪がいるので6歳がまだまだ母親を必要とする年齢だということがよくわかるので、その気持ちを思うと苦しくなるほどでした。

 

れんが病気になった時に、母親が懸命に看病をし、そのためにれんは「生き永らえてしまった」と母親も父親に責められ、娘に会うことも許されません。いっそ娘と一緒に死にたいと思うも、家名を汚すことになるとそれもできない。これも時代でしょうか。

 

安はれんの中に可能性を見出し、信じ、熱心に教育を行います。

 

最初に教えたのは「イエス・ノー」。

物事にはやっていいことと悪いことをまず教えます。

やり方はお腹がすいているれんに握り飯を持っていくんですが、空腹のため乱暴に奪い取ろうとすると渡さずにれんの手を安の顔に持っていき「イヤイヤ」と首をふる。何度もされるとれんは考えます。

れんは賢い子なのでしょう。すぐにその意味について考え、手を差し出してみます。すると安が「うんうん」と首を縦に振りうなずき、握り飯がもらえるんです。

 

「そうやってやるんだ~」て驚きました。

だって、それが分かると感情のままに動くのではなく、考えるようになりますから。ここまでは、犬のしつけと同じような感じですが、この一歩が大きなとっかかりですよね。

何かで読んだんですが、「人間を人間たらしめているのは、理性である」と。正しくそうだと思います。ただ、その理性を持つには教育が不可欠なんだと、それも改めて感じました。

 

ここから色々な人との関わりがあり、事件があり、れんと安の物語は続いていくのですが、その一つ一つは二人にとって厳しい試練でもありますが思いやりや愛情といったものに満ちています。

 

安とれんの物語の終盤で、れんに大きな変化が訪れます。

れんは高熱を出す前に「水」という言葉を理解し、話したそうなんです。

そこでれんが喉を渇いた合図をした際に安は「みず」とれんの手につづって水差しを渡すんですが、れんはそれを安の頭からかけます。ただ、そこで安は何かを思い、れんを井戸に連れて行き、ポンプから出した水でびしょぬれにします。

するとれんの目が輝きだし、「みず」と言葉を発するのです。

 

ここ、一瞬、軽く読み流してしまって、もう一度読んで意味を考えてたんです。

安はれんに物の名前などを教えることはできたんですが、れんが「物の名前だと認識しているかどうか」はわからなかったんです。

でも、ここでれんは病気になる前に認識した感覚を思い出したのでしょうか。それが今までの安の教えたことと繋がり、「水」という言葉が出たのではないかと。

 

それは大きな大きな変化でしょう。私も胸がいっぱいになりました。

最初から最後まで、ただいい話ではなく、切ないです。

時代のせいもある。人の性というのも見える。

それでも、また読みたくなる本だと思います。

 

この本はおススメです。

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